ジャスミンの香りが消える夜、もう一度だけあなたを思い出す / Chapter 7: 第7話:浪速で再会した危険な男
ジャスミンの香りが消える夜、もう一度だけあなたを思い出す

ジャスミンの香りが消える夜、もう一度だけあなたを思い出す

著者: 秋山 みのり


Chapter 7: 第7話:浪速で再会した危険な男

バイト先のタピオカ店でシフトが終わりかけの頃、

隣の店員の桃子が小声で言った。「美桜、見て、あの車また来てるよ。」

私は思わず顔を上げ、道端に停まっているレクサスを見つけた。

ナンバープレートがどこかで見覚えがある。

思わず眉をひそめ、フルーツナイフで指を切りそうになる。

「美桜、あれ、あなたを待ってるんじゃない?」

私は苦笑して首を振った。「まさか、そんなことないよ。」

桃子は私を見て、クスクス笑った。

大阪に来てから、こっちの美女の多さに驚いた。

私のような普通の女の子は、水滴が海に落ちるように、何の波紋も起こせない。

この一週間のあいだ、ほぼ毎日のように店の前の通りにその車が現れた。

ナンバープレートに見覚えはあるが、自分とは無関係だと思っていた。

バイトが終わり、着替えてバッグを持ち、レクサスの横を通り過ぎた。

いつものように足早に通り過ぎようとしたが、今回は車のドアが突然開いた。

私は驚いて後ずさりしそうになる。

だが車から降りてきた男性が私の名前を呼んだ。「辻村美桜さんですか?」

「あなたは?」

「ご心配なく、うちの工藤があなたにお会いしたいそうです。」

「工藤さん?私、そんな人知りません……」

車の後部座席の窓が半分下がった。

淡い光の中、私は車内に座る工藤仁を見た。

彼とは実はそれほど親しくない。

西園寺翔と付き合い始めてから、パーティーで何度か顔を合わせた程度だった。

ほとんど会話もなく、接点もなかった。

西園寺翔の仲間には遊び人が多かった。

彼らは女遊びも激しく、乱れた生活が日常だった。

工藤仁も時々バスケやカードに加わるが、女性を連れてくるのは見たことがなかった。

その頃、私は西園寺翔に「工藤仁って案外真面目だよね」と言ったことがある。

西園寺翔は少しやきもちを焼いて、しつこく食い下がった。

「俺だって真面目になっただろ、美桜?」

「君と付き合ってから、模範的な彼氏になったのに、他の男を褒めるのか?」

「それに、工藤仁の本性なんて君は知らないだろ?」

「工藤家は大阪で、表向きはまともな会社だけど、裏の顔もある。あいつが夜の世界で遊んでた時、君はまだ小学生だったんだ。」

「いいか、あいつには近づくなよ。万が一怒らせたら、俺でも守りきれないからな。」

その言葉は私を本気で怖がらせた。

それ以来、意識的に距離を置くようになった。

以前はたまに会話もしたが、今は遠くから見かけたら避けるようにしていた。

その後、工藤仁はほとんど姿を見せなくなった。

半年以上、噂も聞かなかった。

まさかここで再会するとは思わなかった。

しかも、彼が私を探しているなんて。

「美桜。」

工藤仁が低い声で私の名前を呼ぶ。

街灯の明かりが明るく、クスノキの葉を通して斑に降り注ぐ。

夜風に揺れて、光と影が彼の彫りの深い顔に落ちる。

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