Chapter 3: 第3話:タクシーの中の別れの涙
帰り道。
携帯に西園寺翔からメッセージが届いた。
「今夜どうして来なかった?」
「ちょっと体調が悪くて、行かなかった。」
西園寺翔はそれ以上返信しなかった。
私は携帯をバッグに戻し、車窓の外に流れる夜景を見つめた。
ふいに、私たちが付き合い始めたあの夜のことを思い出した。
西園寺翔は誰もいない廊下で私を待ち伏せしていた。
私は緊張し、混乱し、どうしていいかわからず、それでもどこか期待と不安な喜びを感じていた。
「美桜。」
彼が私の名前を知っていたことに驚いた。
彼が私の名前を呼んだ瞬間、私は思わず顔を上げて彼を見た。
夏の夜風が吹き抜け、冷たく感じた。
でも背中には汗がにじみ、手のひらも湿っていた。
「ずっと君を見ていた。」
「ずっと可愛いと思ってた。」
西園寺翔は私の前に歩み寄り、微笑んで言った。「僕と付き合ってみないか、美桜。」
私は思わず目を閉じた。
走るタクシーの中。
華やかでありながらも暗い六本木の夜の中で。
私は音もなく、涙を流した。










