Chapter 15: 第15話:ジャスミンが移った夜
工藤仁は私にキスをしてから、手を離した。「シャワー浴びてくる。待ってろ。」
バスルームから水音が聞こえてくる。
私は京都の老舗で買ったジャスミンの文香をベッドサイドの棚にそっと置いた。小さな包みから漂うジャスミンの香りが、部屋をやわらかく満たしていく。
工藤仁と一緒にいるうちに、私たちはいろいろな好みが似ていることに気づいた。
例えば、和風の朝食が好きなこと。
例えば、ジャスミン茶が好きなこと。
好きな本や映画まで同じだった。
彼の家で使われている香りも、すべてジャスミンだった。
この文香は小さな和紙包みなのに細工が凝っていて、私はとても気に入っている。
部屋中に淡い香りが広がり、私の心も次第に落ち着いていった。
かつては西園寺翔のせいで、この階層の男性たちから遠ざかろうと決めていた。
普通の女の子は、本当に勝てないし、遊びにも乗れない。
普通の生活がしたかった。
彼らの世界の贅沢や狂騒には、どうしても馴染めなかった。
「美桜。」
工藤仁がバスルームから出てきた。髪はまだ濡れている。
ドア枠にもたれかかり、濡れた黒髪が乱れていた。
彫りの深い顔立ちがはっきりと浮かび上がる。
私はソファに座り、顔を上げて見つめた。「どうしたの?」
「西園寺は少し怪我した。病院に見舞いに行くか?」
少し考えてから、首を振った。「行かない。」
工藤仁は微笑んだようだった。「本当に行かない?」
「うん、行かない。」
すでに道を分けた二人、もう何の関わりも持つべきではない。
彼はタオルを投げ捨て、私の前に来た。
私は顔を上げて見上げると、彼は身をかがめてキスをした。
「美桜、今夜の礼をもらうぞ。」
彼の前髪から冷たい水滴が私の顔に落ちる。
だが、唇の熱は焼けつくようだった。
彼の長い指が私の髪をかき上げ、後頭部をしっかりと抱えた。
彼は私を引き寄せ、応じさせ、呼吸が乱れるまで絡み合った。
私の体は春の水のように柔らかく、熱くなった。
工藤仁はまた、あの馴染みのある香りを感じた。
二年前、その香りは西園寺翔のものだった。
だが今は、彼の腕の中にある。










