Chapter 14: 第14話:血の匂いと「もう大丈夫だ」
私は身を固くし、工藤仁の袖を握る手に力が入った。
工藤仁は無言だった。
だが彼の周囲には冷たい空気が漂っていた。
私は深呼吸し、西園寺翔を見つめた。
西園寺翔は私と目を合わせるのをためらっているようだった。「美桜……」
「西園寺、さっき『取り戻しに来た』って言ったよね。」
「でも、どうして私が、他人にベタベタ触られた男なんかを、わざわざ拾い直すって思えるの?」
「美桜!」
西園寺翔の顔色は一気に険しくなった。
工藤仁はふと笑った。「どうした?彼女の言う通りだろ。」
彼は私を車の後部座席に乗せ、頬を撫でた。「ここは任せろ。いい子にしてろ。」
「工藤さん……」
私は思わず彼の手を引き止めようとしたが、彼はすでにドアを閉め、運転手に出発を指示した。
車が動き出し、窓越しに工藤仁の険しい横顔が見えた。
彼は無表情で西園寺翔の前に歩み寄り、拳で彼の顔を殴った。
西園寺翔が反撃するのか、どちらが勝つのか、私はわからなかった。
車が角を曲がり、すべてが見えなくなった。
工藤仁は深夜になって帰ってきた。
車の音が聞こえ、私はすぐにベッドから起きて窓辺に駆け寄った。
遠かったので、彼に怪我があるかどうかは見えなかった。
工藤仁は車から降りて数歩歩き、突然私の窓を見上げた。
私は反射的にカーテンの後ろに隠れた。
カーテンの房飾りが手のひらに食い込むほど強く握っていた。
ようやく我に返った。
この夜ずっと、私は工藤仁のことばかり心配していた。
そのことに気づき、胸がざわついた。
部屋のドアがノックされた。
しばらくその場に立ち尽くし、やっとドアを開けた。
開けた瞬間、工藤仁は私を強く抱きしめた。
微かな血の匂いがして、私は慌てて彼を押しのけようとした。
「怪我したの?」
彼を押しのけて傷を確かめようとしたが、彼は私をドアに押し付けて離さなかった。
「怪我なんてしてない。」
「俺を傷つけられるほど、あいつは強くない。」
「でも血の匂いがする……」
「西園寺の血だ。怖がるな。」










