ジャスミンの香りが消える夜、もう一度だけあなたを思い出す / Chapter 1: 第1話:普通の彼女の最後の望み
ジャスミンの香りが消える夜、もう一度だけあなたを思い出す

ジャスミンの香りが消える夜、もう一度だけあなたを思い出す

著者: 秋山 みのり


Chapter 1: 第1話:普通の彼女の最後の望み

彼氏との連絡が途切れて、もう二か月になろうとしていた。

彼は驚くほど美しい女性を連れてパーティーに現れた。

誰かが冗談めかして声を上げた。「若様、これがほんとのタイプってやつ? てか、なんで前は辻村美桜なんかにハマってたの?」みんなが半分ネタで「若様」と呼ぶのは、彼の家が財閥系で有名だからだ。

西園寺翔は気だるげに笑った。「普通の女の子と付き合ったことがなかったから、試してみたかっただけさ。」

私はドアの外に立ち、泣きもせず、騒ぎもせず、中に入って問い詰めることもなかった。

息を呑んだ。胸の奥がひやりと冷たくなる。

もうここまでだ。私と西園寺翔は、終わったのだと。

西園寺翔は一か月も私に連絡をよこさなかった。

正直、この半年くらいで彼が私に冷めてきているのは、はっきり感じていた。

けれど、彼が泊まりに来る夜は、いつも私に執着して離れようとしなかった。

ぼんやりしながら、ひと月前に会った時のことを思い出す。

その夜、西園寺翔は少し酒を飲んでいた。

私は親友からもらった新しいパジャマを着ていた。

バスルームから出てきた時、西園寺翔の目つきが変わった。

まるで付き合い始めの頃に戻ったような、どこか狂気じみた熱っぽさが宿っていた。

最後には、ベッドの上で息もできなくなるほどで、自分が溶けてなくなってしまうんじゃないかと思うくらいだった。

だが翌朝、彼は出ていき、それきり電話もメールも返してこなかった。

私は元来、受け身な性格だ。

西園寺翔が無視するなら、何度もしつこく連絡してまで、自分からみじめになるつもりはなかった。

何人もの同級生が遠回しに聞いてきた。

「西園寺とケンカでもしたの?」

彼女たちは何度も、西園寺翔が違う女性を連れているのを見たという。

どの女性も美しく、スタイルも抜群だった。

西園寺翔は彼女たちと親しげだった。

私は思わず鏡の前に立つ。

本当に、どこにでもいる女だ。

子どものころから目立たないタイプで、大人になっても平凡なまま。どうしても自信が持てなかった。

西園寺翔が私に飽きるのも、当然のことのように思えた。

それでも、もう一度だけ頑張ってみたかった。もう一度だけ、彼を取り戻したかった。

だって、本当に西園寺翔のことが好きだったから。

彼が私の存在を知る前から、私はずっと長い間、密かに彼を想っていた。

持っているワンピースを全部出して試着した。

最後に思い切って、ワインレッドのキャミソールワンピースを選んだ。

髪も丁寧に巻いて、薄化粧もした。

今夜は友人の誕生日パーティーがある。

西園寺翔も来る。

私は彼に会いたかった。会って、できれば彼を家に連れて帰りたかった。

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