お年玉とギフトでつながる約束——都会の片隅で君ともう一度

お年玉とギフトでつながる約束——都会の片隅で君ともう一度

著者: 外村 慎二


第5話:忘れた約束と凍る車内

『でも春斗、君はどこに行っちゃったの? 道に迷ったの?』小雪の声が再び響く。優しさの皮に包んだ問い。僕の胸にずしんと落ちる。

必死に記憶をたぐるが、やっぱり思い出せない! 指の間から砂がこぼれるみたいに、記憶はすり抜けていく。

『春斗、答えて』

小雪の声がまた耳元で響く。低く、真剣だ。僕は逃げ場を失う。

ハンドルを握る小雪を見つめながら、震える唇で答える。顔の筋肉が言葉に追いつかない。

『もしかして、道に迷ったんじゃなくて、忘れちゃっただけかも……?』自分で言いながら、心臓が縮む音がした。

そう言い終わると、慌てて自分の口を手で塞いだ。思考の防波堤が低い。つい口が滑る。

だって心の中で思っただけで、口に出すつもりはなかったのに! 僕の口は正直すぎる。というか、制御が甘い。

運転中の小雪に視線を送る。信号の赤が、彼女の横顔を一瞬だけ染める。

案の定、彼女の表情は真っ暗だ。顔がこわばっていて、僕の寿命が一気に縮んだ気がした。

下手したら、前の車に突っ込みそうな勢いだ。慌ててシートベルトを確認する。安全第一、命は二番。

『ごめん、ごめん、僕が悪かった!

子どもの頃の何気ない行動で、君にこんなに大きな傷を与えるなんて知らなかった!

もし将来、君が僕の上司になるって知ってたら、僕のお年玉全部君に捧げてたよ!』言葉は謝罪と誇張のミックス。必死だと人は盛る。

嘘だ、絶対そんなことしない、お金は命だ! 心の奥の声が即座にツッコミを入れる。僕の矛盾は筋トレされている。

なぜか小雪の冷笑が聞こえた気がする。ほんの僅かな音。僕の背筋に氷が走る。

本当に空耳かどうか確かめるため、目を見開いて彼女を見る。車内の静けさがやけに広い。

小雪は無視し、僕も黙り込んだ。沈黙が最善。僕の経験則がそう言う。

怖すぎる! 僕の心臓は小さなマラソン大会状態だ。鼓動が速すぎて、息も絶え絶え。

まさか入社してまだ給料ももらっていないのに、クビになるのか? 頭の中で家賃と食費の数字が踊る。ダンスは苦手だ。

でも社会保険完備で家賃補助も出て、24万円の給料、週末は完全週休二日、毎日ギフトももらえる。これ以上どこに天国がある? ここが天国じゃなかったら困る。

こんな仕事、どこで見つけられるんだ! 求人サイトに載っていたら、いいねとブックマークが爆発する。

僕はただの普通の社畜なのに、なんで神様はこんな仕打ちを……。神様、せめて人事権だけは持たないでください。お願いします。

小雪は黙ったまま僕をアパートまで送ってくれた。感謝の気持ちを込めて、九十度のお辞儀をする。姿勢は誠意だ。

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