夫に抱かれぬまま妊娠した夜 / 第6話:戻れない夜と束の間の安堵
夫に抱かれぬまま妊娠した夜

夫に抱かれぬまま妊娠した夜

著者: 山本 千尋


第6話:戻れない夜と束の間の安堵

淳と私はたくさん話した。

久しぶりの旧友との会話で、しばし悩みや苦しみを忘れられた。

食事の後、彼は家まで送ってくれた。

街路樹の影が揺れ、

風がもみじの小さな羽のような葉を落とし、私の髪に舞い込んだ。

「夕香、動かないで。」

淳はそっと葉を取って、髪を整えてくれた。

「そういえば、今は彼氏いるの?」

私は指を握りしめた。

結婚指輪は外していたが、薬指の跡はまだ消えていなかった。

返事をしようとしたその時、

スマホが鳴った。

知らない番号だった。

出てみると、聞き慣れた声がした。

「今どこだ?」

「あなたが離婚届に署名さえしてくれれば、もう何の関係もなくなる。」

震えを隠して答えた。

相手は数秒沈黙した。

突然、尚人が冷たく笑った。

「夕香、離婚するにも直接会って話すべきだろう?」

「言いたいことは全部書類に書いてある。」

「そんなに早く出て行きたいのか?もう次の相手でも見つけたのか?」

強烈なヘッドライトが突然照らした。

淳が私の目を庇ってくれた。

その指の隙間から、見慣れた車が見えた。

心臓が高鳴り、とっさに逃げ出したくなった。

背の高い男が車から降りてきた。

よれたスーツ姿は、長時間走り回っていたことを物語っている。

尚人は電話を切り、暗い目で私を見据えた。

「夕香、こっちへ来い。」

静かな町の夜風の中で、彼の声は低く響いた。

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