第4話:壊れる仮面と疑念
私は写真を削除し、階下に降りて食事をとった。
時刻は七時、尚人はまだ帰っていない。
普段、出張でなければ必ず夕食には帰ってくる。
でもいくら待っても、彼からかかってきたのは一本の電話だけだった。
「今夜は帰れない。さっきまで会議で、連絡を忘れていた。」
電話の向こうから女の子の声が聞こえた。
柔らかく甘い声で、早く車に乗ってと促している。
美紗だった。
喉が詰まり、私は理解ある妻を演じた。
「大丈夫、ちゃんとご飯食べてね。」
切ろうとしたとき、
相手が突然尋ねた。
「どうして今夜帰らないか、聞かないのか?」
「仕事が忙しいんでしょ。」
——そして幼馴染とのデートも。
今日の写真、美紗が送ってきたのだと分かっていた。
彼女は私に身を引けと暗に示している。
尚人は私の口調があまりに冷静なので、不審に思ったようだった。
「最近、何かあったのか?誕生日のこと、知ってるのか?」
私は思わず息を呑み、箸が手から滑り落ちた。テーブルに小さな音が響く。
……
——知っていたところで、どうなる?
彼が美紗を溺愛しているのは、東京の誰もが知っていることだ。
私の沈黙に、彼は珍しく動揺していた。
「綾瀬夕香、あの日のことは深く考えすぎるな。帰ったら説明する。」
「うん。」
電話を切った。
箸を手に取るが、吐き気がこみ上げる。
家政婦さんたちに気付かれないようにトイレで吐いた。
鏡に映る青白い顔——妊娠のせいで、シミまでできていた。
私は美紗ほど美しくない。
今や、彼女よりも汚れてしまった。
もし尚人に知られたら、
どんな目で見られるのだろう。
きっと、もっと嫌われるに違いない。
トイレの窓から、夜風がほのかに入り、涙の跡を乾かした。
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