夫に抱かれぬまま妊娠した夜 / 第3話:初恋の影とすれ違い
夫に抱かれぬまま妊娠した夜

夫に抱かれぬまま妊娠した夜

著者: 山本 千尋


第3話:初恋の影とすれ違い

尚人と私は別々の部屋で寝ている。

ほとんどの時間、彼は出張で家にいない。

私のような、横から入り込んだみたいな妻に会いたくないのだろう。

スマホに匿名のメッセージが届いた。

写真には、尚人が幼馴染の白石美紗と一緒に買い物している姿が映っていた。

彼の視線は常に隣の美しい女性に向けられている。

尚人は私と買い物など一度もしたことがない。時間の無駄だと思っているからだ。

結婚指輪でさえ、私が一人で選んだ。

私は子供の頃から大人しく振る舞ってきた。

父は途中で会社を興して成功したため、成金と呼ばれていた。

家柄の後ろ盾がない私は、裕福な令嬢たちからいつも仲間外れにされた。

高校の体育祭の時、

グラウンドのざわめき、夏の汗の匂い、校庭の砂ぼこりが舞う中、誰かが意地悪で私の服を濡らした。

薄いシャツの下に色が透けて、クラスメートたちが私を笑いものにしていた。

誰かが上着を差し出し、更衣室の場所を教えてくれた。

顔を上げると、その背の高い人はすでに去っていた。

上着の名札には、

「3年1組 三浦尚人」と書かれていた。制服の生地は指先にしっかりとした感触が残っている。

それから私は彼のことを気にかけるようになった。

まさか自分が彼の妻になる日が来るとは思わなかった。

時が経てば、少しは私を好きになってくれるかもしれないと密かに期待していた。

でも現実は違った。

彼の心には、たった一人しかいない。

もし白石美紗の家の事情で彼女が海外に行かなければ、

本来結婚する相手は私ではなかったはずだ。

窓の外でカラスが鳴いた。思い出すたび、心が沈む。

やっぱり“初恋”の存在は、今も彼の心を離さないんだろう。

この章はVIP限定です。メンバーシップを有効化して続きを読む。

あなたへのおすすめ

偽りの花嫁、禁断の夜
偽りの花嫁、禁断の夜
4.9
親友の代役として上流社会の盲目の当主と結婚した結衣。愛と嘘の境界で揺れる彼女は、妊娠と正体発覚の危機に追い詰められていく。すべてを失う夜、禁断の運命がふたりを待ち受ける。
君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離
君の手が頬に触れた夜、運命に抗う僕らの距離
4.6
目覚めた時、隣には四年間密かに想い続けてきた天宮先輩がいた。複雑な家同士の思惑、オメガへの分化、消せないマーキングと心の傷。帝都防衛アカデミーでの絆は、静かに、そして激しく揺れる。家族や政略の重圧の中、雨の夜に交わされるひとつの傘、残された言葉、遠ざかる背中。雪原の爆発と拘置区の壁の向こうで、二人の距離は今も測れないまま。最後に彼の手が頬に触れたとき、心は何を選ぶのだろうか。
妻の出産日に愛人と堕ちて
妻の出産日に愛人と堕ちて
4.8
妊娠七ヶ月の妻と、若い部下との禁断の関係。現実と欲望の狭間で揺れる主人公は、やがて妻の出産の日、愛人からの誘いに心を奪われていく。家族もキャリアも裏切りの果てに、男はどこへ堕ちていくのか——日本的な“仮面家族”の裏側を描く衝撃の愛憎劇。
夫の親友に抱かれた夜
夫の親友に抱かれた夜
4.8
夫との平凡な日々が、親友からの一言で一変する。揺れる心と禁断の欲望の間で、彼女は本当に愛する人を選ばなければならない。裏切りと情熱が交錯する、大人の恋愛劇が今、始まる。
許嫁は私を愛さない
許嫁は私を愛さない
4.9
父の厄除けとして与えられた許嫁・夢斗。ずっと彼を愛してきたのに、運命は残酷だった。悪役令嬢と罵られ、愛も家族もすべて失う未来を知った主人公が、決して報われない恋と家族のために、涙と執着のはざまでもがく。禁断の運命を変えることはできるのか——。
呪われた花嫁、初夜の逆転劇
呪われた花嫁、初夜の逆転劇
4.9
夫を次々と死に追いやる“鬼嫁皇女”と呼ばれた長明は、北国の天皇との政略結婚に送り出される。呪われた運命に怯えながらも、奇妙な義母=羊や皮肉な初夜、因縁深い再会を経て、彼女の心は揺れ動く。果たして二人の運命は、死か、それとも禁断の愛か――。
禁断の子を抱いて逃げた夜
禁断の子を抱いて逃げた夜
4.9
大物実業家・朝倉北斗の子を密かに産み、愛と絶望の果てに東京を去った静香。過去の因縁と執着が彼女を再び追い詰め、選択を迫る。愛か自由か、二人の運命が交錯するとき、静香は何を守り、何を捨てるのか――。
夫の裏切りと復讐の誓い
夫の裏切りと復讐の誓い
4.9
結婚記念日の夜、弁護士の夫から突然の離婚を告げられたユイ。交通事故と裏切りによって全てを奪われた彼女は、絶望の淵で復讐を誓う。愛と信頼を踏みにじられた女の、壮絶なリベンジが今、始まる。
裏切りの夜に抱かれて
裏切りの夜に抱かれて
4.9
全てを失った運送会社社長・吉岡は、裏切りと絶望の果て、謎めいた“縁切り”の依頼を引き受ける。過去の因縁と死者の呪縛が絡み合う山奥の墓地で、娘を守る母の涙と自らの贖罪が交錯し、運命を賭けた儀式が始まる。闇に手を伸ばすその先に、愛と救いは待つのか——
夫の心が他の女に奪われて
夫の心が他の女に奪われて
4.9
記憶を失った夫・直哉と静かに暮らしていた彩乃。だが、かつて夫が愛した美しい少女・美咲が現れ、運命は残酷に彩乃を引き裂く。名家の誇りと女の矜持の狭間で、彼女はすべてを賭けた決断を迫られる——。