夫に抱かれぬまま妊娠した夜 / 第2話:冷たい夫の真実
夫に抱かれぬまま妊娠した夜

夫に抱かれぬまま妊娠した夜

著者: 山本 千尋


第2話:冷たい夫の真実

私は慌てて妊娠検査薬をゴミ箱に捨て、急いで階下に降りた。

廊下の照明が少し眩しい。呼吸が浅くなる。

尚人はとても疲れているようで、夜風の冷たさを身にまとっていた。

彼のシャツに血痕がついているのが見え、驚いて駆け寄った。

「怪我したの?」

彼の様子を確かめようとしたが、尚人は身をかわし、冷たい声で言った。

「やめろ。」

彼は微かにため息をつき、私から目を逸らす。その仕草に、冷淡さがにじみ出ていた。

私は思い出しそうになった。

彼はいつも私に触れられるのを嫌がっていた。

がっかりして手を引っ込める。

救急箱を探しに行こうとした時、彼が言った。

「俺の血じゃない。部下の血だ。」

「裏切られたから、罰として異動させた。」

「裏切ったやつは許さない。それだけだ。」

……

私は震える指を背中に隠し、喉が詰まる。

世間では尚人が冷酷無比で、容赦なく手を下す男だと言われている——だからこそ、ビジネス界で地位を築けた。

もし彼が自分が裏切られたと知ったら、

私はその部下よりも酷い目に遭うのだろうか。

尚人は私を見て眉をひそめた。

「顔色が悪いな。血を見て怖くなったのか?すぐにシャワーを浴びてくる。」

彼は急いで二階へ上がろうとした。

その背中を見つめながら、私は思わず尋ねた。

「尚人、どうして誕生日に来てくれなかったの?」

……

尚人は背を向けたまま、足を止める。

数秒間、返事がなかった。

まるで悩んでいるかのように。

実は、私は察していた。

あの日、彼の幼馴染が帰国し、彼は友人たちと彼女を迎えに行った。

白石美紗はTwitterに何も変わっていないと投稿していた。

写真の中で、二人はいつも一緒に立ち、他の誰も入る隙がないほど親しげだった。

「その日は仕事があったんだ。プレゼントで埋め合わせしただろ?気に入らなかったのか?」

「ううん。」

私は心臓が氷水に沈められたような思いだった。

名ばかりの妻である私が、彼の幼馴染より大切でないことは分かっていた。

でも、不器用な嘘がかえって惨めさを感じさせた。

プレゼントは秘書が届けてくれたブランドバッグだった。

高価だけど、私の好きな色ではなかった。

もし彼が誕生日に来てくれていたら、私は今妊娠していなかったのだろうか。

カレンダーのその日付を指でなぞる。空虚な気持ちが胸の奥に広がる。

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